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雲辺寺、四国遍路


初めての「托鉢」と言うよりも「ストリーミュジシャン」かな・・

野宿

 三巡目・雲辺寺へは逆打ちし、登り口がわかるかなぁ・・と思ってたのですが、何とかわかりました。

 実は、この時始めて野宿しようと思って、二人用のテントを担いで行ったんです。雲辺寺・遍路道、四国遍路

 へい、当然σ(*_*)が重たいテント担ぎ、越後屋は当然のように軽い寝袋持って・・

 いつもの遍路とちがってキツウおますなぁ・・・なんせ今までのリュックの重さが、倍になったんじゃから・・・

 遍路道は山ツツジの真っ盛りで、花が燃えているように見えます。


 雲辺寺に着いたのは、夕方5時を過ぎており、境内はすでにシイィ~~ィンとして、人気が全くありまへん。

 薄暗くなり始めていたので、まだ明るいうちにトイレ付近の広場にテント設営をしました。雲辺寺・遍路道のツツジ、四国遍路

 ホントは雲辺寺に断らにゃアカンのでしょうが、寺の家屋には灯りも見えないし、無人のように暗かったので承諾を得に伺いに行きまへんでした・・すんまへん。

 σ(*_*)がテント設営しとる間に、越後屋が携帯用カセットコンロで湯を沸かし、インスタントラーメンを作っており、こおいう時は、仕事を分担出来てええでんなぁ。

 しかし、こおいう場合に作るインスタントラーメンは、家で作るのと違って、なぜかラーメンがノビてしまい、食うもん食っちまったら後はすることが有りません。

 その頃になると付近は真っ暗闇で、何一つ人工的な光は無く、夜空には星が輝き、黒い杉木立が囲んでいます。

 とっとと寝よ・・・テントに入ってゴロンしますと、風が木々の間を通り過ぎる音が聞こえ、フクロウが「ホォッ~・・ホォッ~・・」と鳴いてます。

 さすが山の中でんなぁ・・・オバケ出たら、どおしょ・・昔の遍路達は、このような光もない真っ暗闇で野宿しとったんでしょうなぁ・・オトロシかったやろおなぁ・・・心細かったでしょうなぁ。

 σ(*_*)は、まだ、どおでもええ越後屋という連れが居るので心細さはあまり有りまへんが、たぶん一人で、こんな所で野宿したらサミシサのあまり泣いとったかもしれん。雲辺寺・遍路道のツツジ、四国遍路

 翌朝、夜が明け始めた頃から一匹の鳥がさえずり始め、それを合図のように他の鳥の鳴き声があちこちから聞こえ始めました。

 夜明けを告げる鳥にも当番が有るのじゃろおか・・・寝過ごしたらタイヘンじゃのおぅ、叱られるかもしれんしのおぅ。

 朝食を準備しましたが、実はこの材料の事で、前日の食料買い出し時に越後屋とモメたんです。

 σ(*_*)は「パンは飽きたので、レンジで「チン」すれば食べれるゴハンと、インスタント味噌汁にしよう」と言ったんですが、

 越後屋は、「そんなワケわからん「チン」するゴハンなんか、お湯で出来るはずがなく、もし食べれんかったら飢え死にするでねぇか。まだ死にとうないからパンで十分じゃ。」と言い張ります。雲辺寺・遍路道の石仏、四国遍路

 どおしても意見が合わないので、それぞれ自分の主義主張する食料を食べる事にしました。

 σ(*_*)が一生懸命にお湯湧かして「チン」するゴハンを暖めていると、越後屋は黙々とこれ見よがしに目の前でパンを食べて、「フフン・・」と鼻先で笑っています。

 「チン」のゴハンをお湯に付けて、ジィッ~と待ってます・・それでも良いと書いてあったので・・・

 よっしゃあ時間が来たぁでぇ・・食べてみると、少し芯が有ったなぁ・・やっぱりお湯につけるだけじゃアカンようやのおぅ。

 もう一回ナベにゴハンを入れて、少し水を足した「オカユさん」にして暖め直すと、少しは芯が取れました。雲辺寺・境内、四国遍路

 σ(*_*)は優しい人間なので、越後屋に「チン」のゴハンを少しわけてやりました。
 どんな味がするか、欲しそうな顔しとったので・・

 「どうじゃ、ちゃんと食えるじゃろおがぁ」「フン、たいした事ないわい」

 うぬれぇぇ!!・・人が親切にも慈悲心に満ち溢れんばかりに分けてやったのにぃ、どこまでも強情なヤツじゃ。!!・・もお、頼まれても分けてやらん!!

 寺の人や参拝客が来ないうちにテントを撤収し、ここで野宿した跡もフリもしまへんでした。

托鉢

 「ゴロン・・ゴロン・・」とケーブルカーの音が聞こえ始め、参拝客がポチボチ来ます。萩原寺への遍路道、四国遍路

 実は、この時まで托鉢した事は無く、托鉢するなら雲辺寺が良さそうだなぁ・・・と思い、今回やってみようかな・・と覚悟を決めて来たんですが、いざこの場へ来てもやっぱり迷います。

 どおしょうかなぁ・・・恥ずかしいなぁ・・でもやってみたい気持ちは有るんだけど・・・ウダウダ・・グズグス・・していてろ、なかなか踏ん切りが付きまへん。

 初めて寺で尺八吹いた時と同じように、もんのすごく心が揺れ、あの時と同じ気持ちです。

 やっぱり恥ずかしさが先に立つので、参拝客が通る所から離れているけど、何とか気が付いてくれるじゃろ・・と思って、境内の石のテーブルの有る所で吹いてみました。萩原寺への遍路道、四国遍路

 しばらく離れて見ていた越後屋が「そこでやってるんじゃあ、単に尺八を吹いてるだけなのか、托鉢しとるのかわからんでっせぇ」と言いに来ます。

 うむ・・そうかもしれん・・・笠をひっくり返して、お金の受け皿代わりに置いても参拝客から見えず、「あの人、あんな所で尺八吹いてるわぁ」と奇異な目で見られるだけんかもしれん・・・もっとも、そのものズバリ「奇異な事」しとるんやけど・・・

 それでは、もおちょっと寺の人にバレん所で目立つ所へ・・・と、笠と尺八持ってウロつき、ケーブルカーで来る人は必ず通る、山門を降りた電話ボックスの横に位置を決め、そこはテント張って野宿した付近です。 

 うむぅ・・さすが、人通りが有ると足が震えますなぁ。萩原寺への遍路道からの眺め、四国遍路

 今まで寺で吹いてた時は、もう慣れてそのような震えとかは無く、自然に吹けたのですが、やっぱり、通り過ぎる不特定多数の人を前に、顔をさらして自分の尺八はどうだろうか?と真正面から問いかけるのは勇気が要ります。

 下手クソだったら、だれもお金を入れないし、尺八の音を聴き一瞥の憐憫を得れば、笠にお金を入れてくれ、これほどキッパリした判定はないと思う。

 足を振るわせながらも、目つむって吹き始め・・ケーブルカーからの参拝客が、ザワメキと共に通り過ぎる音が聞こえます。

 しばらくは、だれも立ち止まったり近づいても来まへん。

 コソコソと「あらぁ・・尺八やってはるわあ・・」という声は聞こえますが・・二曲目・・三曲目・・・四曲目・・・やっぱりダメか・・・

 五曲目・・ダメかもしれん・・これ以上やっても入らなかったら、もう諦めよう・・まだ修行が足りんのじゃ、世間は甘くはないのおぅ。

 と思った時、砂利石を踏みながら近寄る小さい音が聞こえ「ハッ」と思い目を開くと、一人のオバハンが笠へ硬貨を入れる瞬間が目に入り黙って立ち去ります。

 入れてくれたあぁぁ~!!(T_T)ウルウル・・・思わず全身が「カアッ~」と熱くなりました。

 それをキッカケに、徐々にお金を入れてくれる人が出てきました。萩原寺への遍路道、四国遍路

 なんせ初めての経験だったので、もうこの位でええじゃろおぅ・・と30分ほどで切り上げ、笠をかかえて越後屋が待ってる所へ戻りました。

 数にして10人余りでしたが、これだけの人が認めてくれたんかと思うと、金額なんか問題じゃなく、もんのすごく嬉しかった。

 正直言って、笠を持つ手も震え、お金を取り出す時も手が震えました。

 笠を持ち帰る途中、オバハンと擦れ違い「あらあぁ~・・尺八、もお、やっていないわぁ・・、入れてあげようと思ってたのにぃ」と、σ(*_*)とは気付かず仲間に向かって話しているのが聞こえました。

 あちゃあぁぁ~・・惜しかったなぁ、きっとケーブルカーで来て、参拝後に入れてくれるつもりだったんでしょう。

 そう言えば、お金が入り始めたのはケーブルカーの参拝客が帰る頃からだったなぁ。

 昔の門付けをやってた虚無僧や芸人達は、ドギツイ言い方かもしれまへんが、聞く人の心に向かって全霊を込めて訴え、一銭でも余計にお金を得る気持ちでやってたんでしょうなぁ。

 それでこそ芸が上達したんだと思い、今回托鉢をしてその気持ちの一鱗がわかった気がします。

 お金が入らない間は、ホンマに不安で、その間は単に好奇な眼で見られているだけなので、その時の気持ちだけは、実際にやった者でないと、わからんと思う。

 今思うと「托鉢」というよりも、「ストリーミュジシャン」の方が当たってるかもしれない。

遍路道

 二巡目に雲辺寺から大興寺へ降りる時、遍路道の途中に「萩原寺へ」という朽ち果てかかった看板が有ったので、そのルートを通って萩原寺へ行きました(地図に載ってない遍路道)。

 下り道だったから良かったもんの、えらい坂道で登る時はキツイでっしゃろおうなぁ。

 だいたいロープウェイを左に見て平行した道でしたが、もうすぐ麓と思われるロープウェイの鉄塔付近で道が無くなってます。 

 あんらあぁぁ・・こりゃあぁぁ・・エライこっちゃ、エライこっちゃ・・と踊っとるヒマも無く、付近に遍路札も無いので道を探しました。萩原寺、四国遍路

 鉄塔付近を潜ってロープウェィと交差するように進めば、今までの山道とちがう幅広の道があったので、これをたどれば麓へ行くだろうと踊りながら喜んで歩きました。

 しばらく行くと、道がY字の三叉路となり、ここにも頼りの遍路札が有りまへん。

 麓へ行くと思われる道を行くと、道が無くなりヤブの中へ入り込んだので、再びY字路まで戻り山手へ行くかもしれない道へ進むと、ロープウェイ乗場の建物の裏に出ました・・良かったあぁぁ~・・!(^^)!

 一時は、どおなる事かと、泣かにゃアカンかと思ったでぇ・・・(^_^;)

 もう一つ雲辺寺の頂上ロープウェイ乗り場付近から萩原寺へ降りる道があるらしいですが、納経所で聞いても「行った事ねぇので知らない。ロープウェイ乗り場で聞け」と言われたので、そんな不確かな道を探すより、途中にあった道を行った方が、ええじゃろおうと思ったのです。


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 恥ずかしながら「YouTube」に尺八曲「手向」を載せており、

聞いて頂ければ泣いて喜びます。

 当「遍照の響き」ホームページに掲載されている写真がpixtaで販売されています。



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