HOME > 遍路・巡礼 > 四国遍路第一章「目次」 > 1 老遍路
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雲辺寺へ行くのには、佐野集落より高速道路の下の道をヒーコラ言いながら登ります。
この高速道路付近の道が一番キツイでんなぁ・・・そこさえ過ぎると後は、写真のような遍路道が続き、やがて車道とぶつかり、車道をテクテク・・・。
やがてS字の車道を突っ切るように遍路道を上がると、雲辺寺の山門があります。
一巡の雲辺寺へ行った時、本堂・大師堂の参拝が終わり、境内をブラブラしてると護摩堂に「自由に中に入って参拝してください。物を食べたり寝ないで下さい」と書いてありました。
ほほおぉぉ・・・人が来ないからと言って休息所代わりに、寝転んだり飯を食ったりするんじゃねぇ・・という主旨じゃな、と言う事は・・・このような注意書きが無かったら、そおいう事をしたくなるような環境かもしれん・・たぶん・・。
護摩堂は、ご利益がなさそうな所と思われてるのか、本堂・大師堂のように参拝に来る人がいません。
一巡目のその頃は、まだ堂内に入って参拝していなく、堂内に入ったらアカンもんだと思っており、他の人と同じように遠慮して外で参拝しとったんです。
この時は、魔がさしたというか、好奇心というか、ついつい話の種にでもと・・「そおですかぁ・・すいまへんねぇ・・・そいじゃチビッと入らせてもらいます」と、勝手にブツブツ言いながら入りました。
護摩堂内は、中央の祭壇付近だけがボンヤリと明るく、室内は薄暗い畳敷の部屋です。
暗さといい、人も来なくて静かだし、座布団でも有れば二つ折りにして枕にすると、よぉ眠れそうやのおぅ。
これじゃあ、張り紙でもしないと、ここでゴロンする人もいるかもしれんなぁ・・と、思いつつもゴロンしないで、正面の席を外した横の場所に座って尺八を吹きました。
時間に余裕があったので数曲吹き続けていると、途中だれかが参拝しに室内に入って来たようで、蝋燭に火を付け部屋の後ろへ下がります。
おぉぉ・・珍しい・・こおいう堂にも、参拝しに来る人が居るんじゃなぁ・・と思い、曲が終わった時に、チラッと斜め後ろを見て確かめると正座していました。
今までの参拝客だったら、尺八を吹いていようが何してようが、構わずに自分の参拝をサッサと済ませて帰って行くのですが、ジイッ~と座っており尺八が終わるのを待ってるんかな?
正面を外して脇の方で参拝してるのだから、自分の参拝をするんなら出来るはずだが・・・
かまわんじゃろおう・・と、さらに数曲を吹き続けてると、途中で参拝もせずに室内から静かに出て行く気配がし・・あらあぁ~、参拝して行かなかったのね。
もう数曲吹き護摩堂を出て、さぁ・・トイレへ行って出すもんは出して、次ぎの寺へ行こうと思い、トイレへ入ろうとすると、入口付近で前歯の欠けた、見知らぬ小汚いカッコウのジサマが話しかけて来ます。
「あんたぁ・・さっき尺八吹いておったのおぅ。
ワシが昔付き合っていた彼女が琴をやってたもんだから、ワシもチビッと尺八やろおかと思ったんじゃがダメじゃった。」
本堂か大師堂で吹いてたのを聞いてたのかと思ってましたが、このジサマが護摩堂へ入って来た人でした。
ジサマは、今まで長い間遍路をやっていたが、いつまでもこんな事をしてる訳にもいかんと思い、今回の逆打ちを最後に遍路を止めるつもりで関係寺も含めて全部巡る予定にしており、これから萩原寺へ行くと言います。
その時は遍路中の軽い一期一会と思い、雨も降りそうなので短く話しをして、それで別れました。
雲辺寺から次の大興寺へ行く途中で、とうとう雨が降って来ました。
途中に白藤大師堂が有ったので、雨宿りさせてもらおう思い戸を開けると、さっきのジサマが雨具を着て、所帯道具を積んだリヤカーを出し、まさに出発しようとする所でした。
σ(*_*)は自慢じゃないですが、あんまり人の顔を覚えるのが得意な方ではなく、さっき会った人の顔も忘れっちまうのですか、ジサマの方が「おおっっ・・」と言ってσ(*_*)の顔を、しっかり覚えていました。
話し始めると、次から次へと話しがはずみ、ジサマが出発しようとして別れの挨拶もしたのですが、なぜかついつい会話が長引いてしまうんですなぁ。
永年遍路して歩いてる人だから知ってるだろうと思い、「庵の坊さん」の言った事が正しいのかと聞いたり、仏教の事や般若心経の「空」に関して質問しました。
やっぱり詳しく知ってますねぇ・・しかも分かり易い言葉で、理論立てて教えてくれます。
後でわかったのですが、長年遍路している人の中では、かなり知られている有名な宗教家でした。
しかし、その時は「おぉぉ・・こんな小汚いカッコウしとる遍路でも、難しい仏教の内容を詳しく知っているとは、人は見かけによらんもんじゃ・・・さすが四国遍路、恐るべし!!」と思ったのが正直な気持ちでした。
この時「徳島県11出会いの縁」に記載した日本一周のアンチャンが、白藤堂の前を通ったので呼び止めて一緒に雨宿りしたのです。
これが今まで何度も話しに出て来た「老遍路」との最初の出会いでした。
この「老遍路」とは今まで4回会い、その内一度は室戸に住んでいた時に家を訪ねてくれました。
2回目に出会った時、「あの時(雲辺寺)護摩堂に入って参拝をしようと思ったのだが、尺八の音を聞いてると、どおしても参拝する声が出せなかった。
普段は他の人が参拝して読経していようが、何してようが構わずに、自分の参拝をするのだが、あの尺八の音を聞いていたら、何故かどおしても経を詠む声が出てこず、今までこんな事は一度も無く初めてだった。
これは尺八の邪魔してはダメだと思い、室内を出て外のベンチで聞かせてもらっていたのだ。」と打ち明けてくれました。
そお言えばあの時、蝋燭点けた後、しばらくの間、そのま座っていたなぁ・・あのま参拝するもんだと思っていたのだが・・うぅぅむぅぅ・・・永年遍路修行されとる人から、そこまで言ってくれるとは正直思いませんでした。
σ(*_*)としては単に尺八練習の一環としてやってたつもりだったんですが・・
恥ずかしながら「YouTube」に尺八曲「手向」を載せており、聞いて頂ければ泣いて喜びます。
当「遍照の響き」ホームページに掲載されている写真がで販売されています。
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