HOME > 遍路・巡礼 > 四国遍路第一章「目次」> 9 流転放浪
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二巡の秋終わり頃、金倉寺で夕方になったので打ち止めとし、金倉寺駅の待合室でボケェッ~と汽車が来るのを待っていると、薄汚いカッコウの長靴を履いたトッツアンが入って来ました。
うん?・・・このトッツアン・・・今まで何度か会った事のある托鉢しとった人でねぇかな?
最初に会ったのは数日前、雲辺寺の石像が建ち並ぶ隅っこで、箱を手に持ち黙って立っており、遍路の托鉢なのか、何かの寄付金募集をしとるのか、ちょっと見た目ではわからん托鉢のしかたをしてました。
二度目は曼陀羅寺で、やっぱり同じように立っており「また会いましたね」と声を掛けて荷物を置いた後、入れてあげようと思って振り返ると、もう居ませんでした。
三度目は、善通寺の塀沿いの所に立っていたので入れてあげると、トッツアンも、さすがにこちらの顔を覚えたらしく「今度会っても、もう入れなくて良いですよ。」と笑いながら言います。
そんな事があったので、お互い「あら、まぁ・・」という感じで汽車が来るまで親しくお話をし、名前を尋ねると「M」さんと名乗ります。
「松尾峠大師堂」再建の話題になった時、Mさんも手伝ったと言い、後日、高見さんに会った時、Mさんに駅で出会った事を話すと「そうか、M君も托鉢できるようになったか・・」と言ってたので、遍路している事情を知っていたのでしょう。
翌々日の夕方暗くなった頃、Mさんがこの先の国分寺駅のベンチで寝ているのを見ましたが、あえて起こさず話をしませんでした。
寒くなったら大阪へ戻って、土木作業をするつもりで荷物にはヘルメットを入れているとの事・・・私より一つ年上の団塊の世代でした。
Mさんは、今も長靴を履いて四国を放浪しているのでしょうか。
道隆寺まで・・・テクテクテ・・・
ここの境内に古い「目に効くお堂」が有って雰囲気的に好きな所でしたが、火事で燃えてしまい新しくなっていました。
郷照寺は通り道を直角に曲がったやや狭い道から入るので、車遍路の人は、その狭い道を「まさか・・」と思って通り過ぎてしまい、よぉ~道を尋ねられます。
二巡時、大師堂内へ入って尺八参拝するつもりでしたが、階段の所に履き物と杖が置いて有り、いつもは開いてる戸も閉まっており、ほおぉぉ・・珍しいでんなぁ。
今までの経験上、堂内に入ってまで参拝する人は、ほとんど居なく、よっぽど信心の有る人か、強い願掛けの人なので、ジャマしたらアカンと思い堂内に入らず、外の階段脇で参拝しました。
尺八吹いてると、やがて堂内の人が参拝が終わったらしく出て来る気配がし、そのまま帰ると思ってましたが、しばらく私の側で立たずむ気配がします。
尺八が珍しいので聞いており、そのうち帰るだろおと思っていましたが、しばらくして小さい声で「あの・・」と声をかけて来ます。
うむむぅぅ・・・弱ったなぁ・・参拝中は、原則として話かけたりしたらアカンのだが、曲が終わるまで待ってくれるか、それとも諦めてくれんかなぁ。
二度目の声掛け・・・・まだ曲が終わらんのだけど・・弱ったなぁ、悪いけど諦めてもらえんかなぁ・・聞こえんかった事にして、心を鬼にし無視・・。
三度目・・・、もうこれ以上待たせるのは悪いと思い曲の途中でしたが、切りの良い所で止めて振り返りました。
見れば、一人のオバチャンが千円札を差し出しており、その表情は、もんのすごく苦しみぬき、やつれてるように見えます。
接待を受け取り、曲が終わった所から吹き直した後、先ほどのオバチャンがまだ境内に居るかと思って探すと、境内の石仏を丁寧に参拝しています。
たぶん願掛けだろうと思い、出来るもんなら何とかしてあげたく、相談に乗れるもんなら乗ってあげたいという気持ちで「願掛けですか?」と尋ねました。
「そうだ」と答えましたが、とてもその内容を聞くような雰囲気でなく、そのまま先ほどの礼を言って別れましたが、よっぽど強い願掛けだったんやろおなぁ。
この郷照寺・大師堂で、靴を脱ぎ堂内へ入って参拝する人なんか今まで見た事なかった。
たいていは、靴を脱ぐ間も惜しんで参拝して次へ行くのに・・・
三巡時、あの大師堂にはだれも居なかったので、上がり込み参拝し、夏の終わり頃で暑かったのですが、たまに窓から涼風が入ります。
数曲吹き終わった時、後ろからの視線を感じたので振り返ると、入り口階段の所で錫杖を持った先達らしき仙人のような白髪のジサマが、ジィ~ッと立って見ております。
目が合ったので軽く会釈すると、ジサマも頷き返しますが、その目は「おぬし・・やるな・・」と言ってるように見え、「そおいう貴方様も、相当なお方で・・・」と一瞬目で会話したように思う。
恥ずかしながら「YouTube」に尺八曲「手向」を載せており、聞いて頂ければ泣いて喜びます。
当「遍照の響き」ホームページに掲載されている写真がで販売されています。
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