HOME > 遍路・巡礼 > 四国遍路第二章「目次」 >6 待 つ


   H17.11.27 UP



 焼山寺から下ると「杖杉庵」付近より、パラッ・・と小雨がかかり、長期予報では、ここ数日晴れやったのになぁ。杖杉庵・付近、四国徒歩遍路

 「鍋岩」の大きなバス駐車場の休憩所に来た頃には、薄暗くなって霧がかかり始めます。

 今夜は、ここで野宿してテント張る予定だったので、机を少し移動し、そこに有ったゴザを拝借して敷き、板壁と机の間にテントを設置しゴソゴソしてると近所のバサマが来て

 
「ここで泊まるんかい?」

 あんらあぁぁ・・叱られるんかな・・と思いながら許可を求めると
「ええんでねぇかい」という言葉と共に

 
「昨日、親戚が来て、よぉけいオニギリを持って来たんじゃが、年寄りなもんで食べきれんから貰ってくれるかのおぅ。」杖杉庵、四国徒歩遍路

 うっ・・ここら辺には店が無いのを知ってたので、インスタントラーメンやら何やらを買い込み、重い思いしてヒーコラ言いながら担いで来たんじゃけどなぁ。

 それを食っちまわないと、明日また同じ重さの食料を担いで行かんなアカンのやけど・・と一瞬思いましたが、そこは善意で接待の申し出をしてくれてるので、

 
「ありがたく頂戴いたします」
 「そんじゃあぁぁ・・ちょっと待っててなぁ・・」
と小雨の中を歩いて行きました。

 やがてパックを持って来て、中は「オニギリ」かと思ってたら黄粉と餡をまぶした「おはぎ」で、ここらへんの「オニギリ」は、餡とか黄粉をまぶすんじゃろか・・・杖杉庵、四国徒歩遍路

 周りは暗くなり始め、民家にポツリ・・ポツリ・・と明かりが点き始めます。

 バサマにお礼の「納札」を渡すと、怪訝な顔して
 
「遍路しとる人に、茶でも飲んでいかんかね・・・と声掛けた時などに、よぉ~こんな紙をくれるけど、いったい、この紙は何じゃね?」と聞きます。

 札所寺を参拝した時に納めたり、遍路同士が名刺代わりに交換したり、今のようにお世話になった人に、お礼の気持ちで渡す紙だと教えると

 「ふう~ん・・」と言いながら、赤色や金色やら、いろんなのが家に有ると説明し始めます。杖杉庵からの眺め、四国徒歩遍路

 「ここも過疎になってるようだけど、もう人が住んでない家も有るんでしょね。」と尋ねると、灯りの点いてない家を順番に指さし「あの家は、いついつから・・その家は、あの頃から・・」と教えてくれます。

 ついでにバサマがここへ嫁に来た時の苦労した事も話、ジサマは死んじまったが生前は酒飲みで、これまたドエライ苦労した事など・・・

 今までの人生は全て苦労の連続だったというような、どちらかと言うとグチが多く、だれかにその心情を話たかったんかもしれまへん。四国遍路道

 しばらく話をし、バサマが再び小雨の中を帰っていったので、テントを机の奥の方へ移して夕食準備をしました。

 机でインスタント味噌汁を作るため、携帯コンロで湯を沸かしていると、バサマが
「忘れとった」と言いながら梅干しを持って来てくれました。
 すんまへんねぇ、わざわざ雨の中を・・・・。

 食事が終わると後はする事がありまへん。

 小雨煙る「鍋岩」集落の暗い闇に、遠く家の灯りが点々とするのを見ていてもヒマなので、尺八を吹きました。

 隣の家が何となく空き家のような気がしましたが、ヒョットして人が住んでたらヤカマシイかと思われるかもしれんので、なるべく遠慮して弱い音・・・pかmpのつもりで・・・・四国遍路道

 そしたらトイレへ行ってた越後屋が走って戻って来て
「こ・・こらっ・・トイレまで大きい音で聞こえるでねぇか。夜に吹いたら、皆の迷惑じゃろが・・」と叱ります。

 うむぅ・・この雨音と、家は窓を閉めてるから聞こえんと思うが・・・まぁ止めとくか・・・。

 夜は雨がザァザァ~と降り、翌朝6時頃に起きても雨が降り続いてます。

 さて、今日は、どおしょうかなぁ・・・

 他の遍路は、きっと、この雨の中を歩くやろおなぁ・・・
 焼山寺の宿坊に泊まった人は、食事が7時だから、まだこの「鍋岩」まで下りて来なく、通夜堂で泊まるという若者二人連れも、まだ来ないし・・・「鍋岩」、四国徒歩遍路

 まぁ・・・とにかく8時頃まで雨の様子を見て、今日の行動を決めよう。

 山々は雲か小雨かわかりまへんが、幽玄の世界を見せて変化してます。

 7時頃、もう近くの人は起きて、朝飯を食いながらテレビでも見てるじゃろうから、尺八でも吹いて待つか・・・・と袋から出し始めたら、越後屋が
「せっかくの休みの日だから、ゆっくり寝ようと思ってる人が居るかもしれん」と再び横槍を入れてきます。

 ええぃ、ウルサイヤツ目・・イナカの人はオマエと違って早起きするのが常識じゃと思ったけど、それでも中にはσ(*_*)みたいに低血圧の人が居て、朝が弱い人がいるかもしれんと思い直し30分ほど待ちました。「鍋岩」四国徒歩遍路

 それでも、やっぱしどおしてもヒマなもんだから、ついつい遠慮しながらpかmp程度の音量で吹き始めました。

 吹いてると、向こうの人家で車から出入りしながら、こちらをチラチラ見てる人が居ます。

 うむぅ・・あそこまで聞こえるんやろか・・・まずかったかな、遠慮して吹いてるんだけどなぁ。

 二曲吹き、三曲目を吹いてる時、さっきのチラチラ見てた人が車で乗り付けて来て、目の前で停まります。

 アンチャンが運転席の窓を開けて
「それ何?・・尺八?・・」雨の「鍋岩」、四国徒歩遍路

 あそこまで聞こえたのか?と聞くと、
「うん、よぉ~聞こえた。」と言いながら車を降りて、近くの椅子にドカッと腰掛けて「それ、聞かせて。吹いて、吹いて・・。」と急かします。

 それでは・・と、いつも本堂で吹いてる曲を吹き始めると、ジィッ~と目をつむり腕組みしながら聞いており、終わるとパチパチと拍手してくれます。

 
「これから、どうするん?」

 「へい、雨がこのまま降り続くようなら、このまま一日ここに居て、もう一泊しようかと・・
 雨が降ったり止んだりするようならば寄井まで歩き、鴨島までバスで行って、後日天気の良い時に、またここから歩き直すつもりです。」


 「あっ・・そんなら鴨島まで送ってあげるわ」

 「えっ、いいんですか。すんまへんねぇ」
と申し訳なさそうに言うと

 「かまへん、かまへん・・どうせヒマなんだから。はよ、乗って、乗って・・・」
と車の後を開けて急かします。「鍋島」四国徒歩遍路

 慌ただしく荷物を整理し、車の後に荷物を放り込んで車に乗りました。

 「寄井」までの途中、数グループの遍路が雨の中を歩いており、きっと途中の宿に泊まった人達でしょう。

 追い抜きながら、雨具を着て歩いてる人達を車の中から見ていると、聖書の
「・・・こうして後にいる者は先になり、先にいる者は後になる。(マタイ 20章)」という葡萄畑の説話が、なぜか「フッ・・」と思い浮かびました。

 なお、これは単に情景的に思い浮かべただけであり、聖書の説話を意味するものではありまへん。

 期せずして車で送ってもらえたのも、目先の現象にジタバタせんと、成り行きにまかせて「待つ」という事をしていたためでしょう。

 最初の頃は、この「待つ」という事が出来ず、どおしても先を急いじまったが、最近では、「待つ」という事があんまり苦にならんようになってきました。


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 恥ずかしながら「YouTube」に尺八独奏「惜別の唄」を載せており、聞いて頂ければ泣いて喜びます。

 当「遍照の響き」ホームページに掲載されている写真がpixtaで販売されています。


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