HOME > 遍路・巡礼 > 四国遍路第二章「目次」 8 笠 


   H17.12.11 UP



 雨の中を大日寺から常楽寺へ・・テクテク・・・・大日寺、四国徒歩遍路

 もうすぐ常楽寺の池近くで、向こうから来る若いアンチャンが
「焼山寺へは、今日中に行けるでしょうか?」と聞いて来ます。

 順打ちならば次は国分寺なので、道が違うでぇ・・と思いながら確かめると「逆打ち」していると言います。

 「ううむぅぅ・・もう12時近くだわなぁ・・・・
 初めての遍路で、逆打ちかぁ・・しかもこの雨だし、今からでは、ちと無理でないかなぁ」

 「焼山寺付近で、野宿場所は有りまへんか。」
 
「そやなぁ・・地図持ってる?・・・んじゃ出してみなさい。」

 雨が滴り落ちる中をアンチャンがリュックを降ろし、ゴソゴソと地図を探すのを、見るともなし見ちまったリュックの中には、お椀が入ってます。

 ふぅ~ん・・托鉢しとるようやなぁ・・それにしても被っている笠の向きが反対じゃねぇか(梵字が後側)・・・と思いながら、3カ所の候補地を教えました。四国徒歩遍路

 荷物に地図をしまい込むのを見ながら
「アンチャン、托鉢しとるんかね?」

 
「はい、自分は坊主になったばかりなんです。

 青森から秋田の寺へ坊主になりに行ったら、その寺の住職からまず四国遍路をして来い。

 逆打ちで「何かがわかるまで帰ってくるな」と言われ、27番から逆打ちしてここまで来たんですが、お金が無いので今、托鉢してきた所です。」


 おぉぉぉ、今時珍しい住職さんやなぁ、四国遍路して来いというのは、わかる。
 うん、ここまでは、たいていの人が思いつくくじゃろう・・・が、いきなり逆打ちで、しかも「何かがわかるまで帰ってくるな」とまで言い切るとは・・・四国徒歩遍路

 送り出す方は、決して無責任に言ったのではなく、それがどおいう事なのかを知っており、寺で修行させるよりも良いと思って放り出したんじゃろなぁ。

 でないと、初めて遍路する人間に、そんなキツイ事を簡単に言わないもんなぁ。

 
「その住職は、四国遍路した事を有る人じゃないの?」
 「何回も歩いて巡ったと言ってました。」

 そやろねぇ・・・・そこまでやらせる住職ならば、一度はその寺を訪ねてみたいと思い
「どこの寺?」と聞くと「それは・・」と言って口ごもります。常楽寺、四国徒歩遍路

 「言うな・・と言われたの?」と聞くと、うなずき寺名を言いませんでした。

 たぶん寺名を名乗ると、その寺名に寄り掛かり修行にならず、名乗る事を許さなかったんでしょうなぁ。

 名も無いような小さい寺ならば「何、それ?どこの寺?・・ふぅ~ん・・」という感じで名乗っても差し支えないでしょう。

 しかし有名寺ならば、名前を聞いただけで畏れいって下へも置かぬ「おもてなし」をするのが、中身よりも肩書きを大切にする日本人の平均感覚でしょう。

 そのころには話慣れてきたのか、今まで無理して標準語らしい言葉遣いをしてましたが、本来の東北弁に変わってます。常楽寺、四国徒歩遍路

 さっきから気になって、しょうがなかったので
 「アンチャン、笠はどちらが前向きか知ってまっか?」

 「いや、知りません。 何も教わらず3カ月前に坊主になったばっかりなもんで・・」

 そやろおねぇ・・・知ってたら逆に被らないわなぁ。

 
「この梵字の書いてある方が前ですがなぁ。
 で・・笠に書いてあるこの文句の意味知ってる?」

 「いえ、なんせ坊主に成ったばっかりで・・・」
 ホンマに何も教わらずに放り出されたんやなぁ・・・

 まぁ、考えようによっては現在の既成仏教の観念や作法にとらわれず、何も知らない純真無垢のまま遍路させた方が、将来、一味違った坊さんになるかもしれん。


 「でも同行二人の意味は、わかります。」


 「ふぅ~ん・・じゃ、その意味は?」

 お大師様と一緒と、一般的な答えをしたので四国徒歩遍路

 
「普通は、そう言われている。 でも別解釈も有り、それは「貴方の心に居る、もう一人の自分と一緒」という意味も有りまっせぇ。

 歩いてると、もう一人の自分と心で対話しとるでしょ?
 この別解釈も、心のどこか片隅に止めておいてくんなせぇ。」


 次に笠に書いてある「迷故三界城 悟故十方空・・・・」の偈を指差しながら読み砕いてやり、

 「歩いてる時やヒマの時にでも、この偈の意味を考えてみなせぇ」
と言って別れました。

 ほんとは、もっと話したかったんだけど、雨がザァザァ降ってる中での立ち話しであり、アンチャンも焼山寺方面へ早く行きたいやろおし・・

 「わかるまで帰って来るな」と、虎の子を崖から突き落として這い上がって来るのを、茶でもすすりながら待ってる、送り出した住職さんもエライが、それを「やる」と言って遍路し始めた、この若いアンチャンも、もんのすごくエライでんなぁ。国分寺、四国徒歩遍路

 もっとも・・遍路と言うモンを、知らなかっただけかもしれんが・・

 寝る場所にしても、まず野宿候補地を尋ね、最近の若いモンと違って通夜堂とか善根宿の有無を聞かなかったのもエライ!!

 送り出した住職さんから「そおいうのを頼るな」と言われてたのかもしれない。

 仏事の作法もよぉ~わからず、うまく経を唱えられんかもしれんが、ほんまに、こおいう人にこそ坊さんになって欲しい。

 まだ童顔が残る、20才前のような若いアンチャンでしたが、今はどうしているでしょう。


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 恥ずかしながら「YouTube」に尺八独奏「惜別の唄」を載せており、聞いて頂ければ泣いて喜びます。

 当「遍照の響き」ホームページに掲載されている写真がpixtaで販売されています。


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