HOME > 遍路・巡礼 > 四国遍路第二章「目次」 >2 野試合
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最御崎寺は霧がかかっており、麓が晴れていても、ここは室戸岬の高台にある寺なので、海にも近いせいか、よく雲の中に入ります。
参拝が終わり、室戸岬灯台方向の海を眺めていると、越後屋から携帯電話が鳴ります。
なんじゃ、せっかく旅情にひたり、思わず涙がこぼれ落ちそうなのに、無粋なヤツメ・・
電話に出ると「今、尺八持った人が寺へ行くから・・」と教えてくれました。
おぉぉ・・さよか、遍路していて今まで尺八を吹いてた人と出会ったのは、2人しかいなく、それも慌ただしかったからなぁ。
今回は最初から最後まで、ジックリと知らんフリして、ゆっくり聞かせてもらおうじゃねぇか。(^O^)ダハハハ・・・・
後で越後屋に聞いたところ、駐車場で車から降りたトッツアンに「寺まで遠いのか?」と聞かれたらしく、その時に尺八らしい物を持っていたので
「尺八を吹かれるのですか?」
「そうだ。」
「聞きに行っても良いですか?」
「聞きたいの?・・・それじゃぁ・・」
と言って、その場で「調子」を吹いてくれ、弟子に教える手前、実際に霊場巡って吹いてるらしい。
本堂付近で早く来ないかなぁ・・と待っていると、σ(*_*)の着ているようなヨレヨレの小汚い作務衣じゃなく、高級そうなキチッとした茶色の作務衣を着て、いかにもそれらしいトッツアンが一人歩いて来ました。
ヒッヒッヒッ・・・待ってたでぇ・・・早く聞かせてくんなせぇ・・・(^O^)
あら、納経所へ先に行くのね・・・まぁ、先に済ませるモンは済ませておいた方が、良いかもしれまへんわなぁ。
この世の中、次の瞬間に何がどうなるか、先がわかりまへんからなぁ。
おっ、出て来た・・よっしゃあぁぁ・・・本堂へ行くぞ、さっきからワクワクして待ってたでぇ。拍手して迎えちゃおうかなぁ・・・!(^^)!
あらっ・・一瞥して行っちゃうのね・・・そいじゃぁ、大師堂で吹くんかな?、あらら・・通り過ぎちゃうのね。 そいで、そのまま帰っちゃうのね・・・
楽しみに待っていたのにぃ~・・ゴォラアァァァ~・・・木戸賃返せぇぇぇぇ~・・・(T_T)ワァ~ン
しょうがないので、そのまま後ろを少し離れて付いて行き、気が変わったら吹くかもしれんと思ったが、とうとう駐車場に着いちゃった。
越後屋が「聞けた?」 「聞けなかった」とσ(*_*)
そこで初めてトッツアンは、σ(*_*)が越後屋の相棒だとわかったようです。
ううむうぅぅ・・せっかく黙ってコッソリ聞こうかと思ってたんだけど、アカンかったかぁ。
改めて初対面の礼儀として、流派を名乗った後、「σ(*_*)はCDを聞いて自己流で尺八を吹きながら遍路をしていますが、貴方も尺八を吹かれてるそうですね」と言ったが、やっぱりσ(*_*)の「洋山流」は名も無きに等しいチッコイ流派なもんだから知らんようです。
民謡関係の流派と勘違いされたが、尺八の流名を見せびらかして遍路しとるわけでもなく、説明するのもメンドウなので、あえて訂正はしまへんでした。
相手の先生は、明暗流で某地方にて尺八を教えていると言います。
試合に例えるならば、ここら辺が、道場へ乗り込んで「たのもおぅ~」と言い、初対面の挨拶をした部分でしょうなぁ。
聞かせてもらえませんか?」
「えっ、いいですけど、貴方から吹いてください。」
ヘッヘッヘッ・・・何言ってまんがなぁ、弟子まで持っておられるエラ~イ先生が何を、おっしゃいますやら。
何事においても、エライ人が手本を見せるため先に吹くのが、常識でしょうがぁ。
ここら辺は、お互いに剣を構えた所でしょうなぁ。
「いえいえ、そおいう訳にはいきまへん。どうぞ、先に吹いてください。」
「そお言わずに・・」
この付近は相手の構えを見て、お互いに間合いを計ってる段階かな。
相手を先に吹かせて、その力量を見極めてから安心して吹こうと・・・考える事は、お互い同じでんなぁ・・(^O^)ダハハハハ・・・
「やはり、こおいうモンは専門家である先生の方が、先に手本を見せて頂かねぇと。
σ(*_*)のような自己流でやってる下々のモンは・・・・シノゴノ・・・・・」
「いんやぁぁ・・そお言わずに・・ウダウダ・・・・」
ジリジリ・・・と、間合いを計りながら詰め始めますが、どおしても、ここはエライ先生よりσ(*_*)が先に吹くわけにいきまへん。
お互いに何度も譲り合う、涙ぐましい美しい光景が・・・・(^O^)
「どうぞ、お先に・・どうたら、こうたら・・」
「いえ、どうぞ、そちらからお先に・・・・・ああでもない、こうでもない・・・」
・・・延々と、いつ果てるともなく・・おい、日が暮れっちまうでぇ・・(^O^)ダハハハハハ・・・
このままではラチがあかんと思い、よっぽどσ(*_*)が折れて先に吹こうかと思いました。
しかし、やっぱし、どおしてもメンツを重んじる邦楽界の序列の事を考えると、σ(*_*)が先に吹くわけには、いかんわなぁ。
やがてエライ先生も、そう思い始めたのか折れて「それでは・・」と言い、近くの石灯籠に楽譜を置き「調子」を半分位まで吹きました。
「それでは、次に貴方・・」と言うので、いつも本堂で吹いてる「手向」を吹き、エライ先生が曲の途中で止めたので、σ(*_*)も曲を最後まで吹かず半分くらいの所で止めました。
それから少し尺八の話をして別れました。
σ(*_*)としては、この吹き比べは、相手がどのような曲想で吹くのか、自分が持ってない何かが有ったならば、それを今後の参考にしようと思ったのです。
たぶん相手の先生は、こいつはどれ位吹くんじゃろおう・・と思った事でしょう。
偶然に何の約束もなく出会い、お互いに相手の力量を見定める吹き比べ・・という感じで、まさに野試合という気がしました。
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