HOME > 遍路・巡礼 > 四国遍路第一章「目次」 > 15 情熱の歌姫
H16/9/26 UP
八栗寺からは車道をテクテクと下りて行き、途中に「六万寺」へ向かう小さい別れ道があります。
六万寺は、そんなに大きい寺ではなく、どっちかというと村の小さいお寺という感じで、寺前に案内板が無かったら行き過ぎっちまうような寺でした。
しかし、案内板を読むと源平の歴史的云われが有る寺のよおでんなぁ。
六万寺から志度寺へ向かって歩いてると、途中の住宅街付近で方向がわからなく迷子になって、しょうがないのでタンボ道へ下りて車道へ行きました。
一巡時の夕方、志度寺の本堂で参拝しようと呼吸を整えた後、尺八を構えようとした時、納経所の窓からバサマが「ケンテキするのか?」と大声で言います。
はっ?・・ケンテキ?・・献血なら、ここ最近やっておらんが・・・叱られとるんかな?、と思ってボェッ~とバサマの方を見てると、もう一度同じ事を言うので、やっと「献笛」だとわかりました。
尺八を寺で吹くのを「献笛」というのか、どおかわかりまへんでしたが、説明するのもメンドウなので「はい、そうです」と答え、参拝が終わるとバサマが手招きして呼び、「本尊様にお供えした、お下がりだ」と言って粉菓子をくれました。
後で食べてみると、ちょっと線香臭い味がしたが、まぁ・・そこがアリガタイのかもしれん。
二巡時、志度寺・五重塔の所へ行ってみると、3人の遍路が座って托鉢しています。
普通、寺で托鉢する場合、人の出入りが多い門付近で托鉢した方が貰いを多いのですが、この遍路達は、あんまり人が来ない目立たない所で托鉢してます。
以前、遍路「クマさん」さんが
「寺でやる托鉢は目立つ所でなく、人が来ない目立たない所でやるのが本当だ。
本当に信心の有る人は、必ずそおいう人を見つけ出す。
また、そおいう人からの布施でないと価値がない。」
と言ってたのを思い出し、今まで寺をウロついていて、そおいう人は見た事がなかったが、ここで初めて、「ううむぅ・・今も、そおいう人が居るんだなぁ」と思いました。
三巡時、志度寺・山門付近へ来ると微かに笛か尺八のような音が聞こえます。
おっ!!・・これは、ヒョットすると・・・と思い行ってみると、本堂下で一人のジサマが尺八を吹いてましたが、すぐに曲が終わっちゃった。
話をすると、車遍路しながら札所をを飛び飛びに巡っており、流派所属会等を聞くと一巡時に出会った虚無僧と同じ会派です。
虚無僧の名前を言うと、その人の弟子だと言い・・おぉぉぉ、奇遇でんなぁ。
大師堂でも吹くと思ってたが、吹かずに行っちゃっい、お手並み拝見して、ゆっくり聞きたかったんだけどなぁ。
二巡目の夜は、郊外の駅で車中泊しました。
駅付近に店は無く、建て売り住宅街だけが閑散としており、夜中にはスケボーをする人が「ガラガラ・・」と音を立てて遊んでます。
駅舎はガラス張りでベンチもあり、ヒマだったので駅舎内で尺八を吹いてみました。
これがガラスで反射するためか、ビックリするほどもんのすごく響き渡り、ちょうど風呂場で歌うとエコーが掛かってるように、我ながら上手に聞こえるんですわ。(^O^)
たまに汽車が入って数人降りてきますが、気にせず吹いてると、一人のネエチャンがウロウロして側のベンチに座りました。
最初ウロウロしとる時は、トイレでも行きたいのかと思い、そいでもってベンチに座った時は、これから彼氏とデートの待ち合わせでもしとるんかな?と思ってました。
吹いてた曲が終わると、突然パチパチと拍手してくれ話しかけて来ました。
聞けば、自分は音楽大の声楽を卒業したが、その道に進もうとしても難しく、結婚式場などでアルバイト的に歌っているが、それはボランティアみたいものだ。
今は観光バスの添乗員をしているが、まだ歌への夢と希望を持っている。
ううむぅぅ・・・音楽で身を立てるのは難しく、よっぽどの才能とか、人脈・運もないとなぁ。
そのうちに「あなたの尺八と、私の歌と一緒に組んでライブをやらないか」と持ちかけて来ます。
「えっ?!・・ワシは、そんな華やかな世に出るような人物ではごぜぇません。
他に、もっと上手な適任者やプロの方が居るでしょうから、その方とやんなせぇ。」
と断ったんですが、「いえ、あなたと一緒に是非やりたい・・・」と、一生懸命説得し始めてネバります。
「ワシはこの年になって、今さらライブや舞台に出演して、他の人に気を使ったり、組織に入ってシノゴノ言われるのもイヤなので、今のまま束縛されずに気儘に尺八を吹いてる方が気楽なのです。」
と断ったのですが、このネエチャンはコンジョが有り、なかなか引き下がらず、「それでも一緒にライブを・・・」と、なおもガンバリ続けます。
話しをしてると情熱が有るというのか・・今も夢を棄てきれず、その夢に向かってまっしぐらに突き進みたいというのか・・そおいう真剣さが、ヒシヒシと伝わって来ます。
ワシなんか、もう枯れ果ててしもおて・・・「夢」や「情熱」という単語は、いつのまにか、どこかへ消え去っちまい、このネエチャンと話して、ホンマにシミジミと「情熱」という単語を思い出しました。
話してる時に「情熱の歌姫」という言葉が自然に頭に浮かび、まだ話したそうにしてましたが、若いネエチャンが遅くなると親が心配すると思って家へ帰しました。
翌朝、早く起きると「情熱の歌姫」の車が駐車場に置いてあり、もう仕事へ行ったのでしょう。
三巡目に行った時も、「情熱の歌姫」の車が駐車場に有り、今もまだ夢を持ち続けてるのでしょうか?
恥ずかしながら「YouTube」に尺八曲「手向」を載せており、聞いて頂ければ泣いて喜びます。
当「遍照の響き」ホームページに掲載されている写真がで販売されています。
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